犬の留守番ストレスを減らすために
現代社会では共働き世帯や一人暮らしの方が増え、「犬が長時間ひとりで留守番をする」ことが一般的になってきました。
しかし、本来群れで生活していた犬にとって、長時間の孤独は大きなストレスになります。中には自傷行為や不適切な排泄などの問題行動に発展するケースも少なくありません。
私たち獣医師の立場から見ると、「留守番=我慢させるもの」と捉えるのではなく、「留守番=犬にとっても安心できる時間」に変えていくための工夫が、健康面・精神面の両方でとても重要です。
また共働きでどうしても時間が取れない環境であれば、犬の保育園や幼稚園と言われているものの活用もお勧めしています。
今回は、犬の留守番ストレスを減らすためにできることを、医学的視点と実践的アドバイスの両面からお話しします。
犬が感じるストレスの正体とは?
まず、犬が留守番中に感じるストレスには、以下のような要因が関係しています。
- 飼い主がいないことへの不安
- 環境刺激の不足(退屈)
- 予測不可能な時間経過
- 騒音や外部の刺激に対する過敏な反応
これらが積み重なると、吠え続けたり、家具を壊したり、トイレの失敗が増えたりと、いわゆる「問題行動」が現れます。
これを単なる“悪い子”と見なすのではなく、「この子は不安や退屈を訴えているのかもしれない」と考えることが、改善への第一歩です。
留守番に強い子に育てるために(予防的対策)
留守番に徐々に慣れておくことで、犬たちのストレスを少なくすることができます。
具体的に留守番に慣れるためにどうしたら良いのかを解説します。
子犬の頃から「ひとりの時間」に慣らす
特に子犬の場合、家に来てすぐはなるべく一緒にいる時間を取りたくなりますが、将来的に留守番が避けられない環境であれば、短時間からの「ひとり練習」を始めておくことが大切です。
慣れていなければ数分間から、別室で過ごす、ハウスで過ごす時間を設けるなど、段階的に慣れさせましょう。
毎日のルーティンを整える
食事、トイレ、散歩、遊びなどのリズムを整えることで、犬は安心感を得られます。
出かける時間・帰宅時間がある程度決まっていると、犬も「今は待つ時間だな」と学習できます。
ただし、少しの揺らぎはあっても良いでしょう。
1ー2時間のズレがあっても、許容できるように慣れることも大切です。
留守番中のストレスを軽減する実践テクニック
すでに留守番でストレスを感じてしまっている犬にはどうしたら良いでしょうか?
いくつかの工夫を以下に解説します。
環境の工夫
■安心できる「留守番スペース」をつくる
狭すぎず広すぎず、落ち着けるクレートやベッドを設置しましょう。
遮音カーテンや音楽(クラシックや犬用ヒーリング音楽)も効果的です。
■外の音・刺激を遮断する
通行人の声や車の音、チャイムなどに過敏な犬には、窓を閉める、防音マットを敷くなどの対策を。
知育トイやおもちゃの活用
■コングやおやつ入りパズル
おやつを詰めた知育トイは、犬の集中力を引き出し、留守番中の“退屈”を軽減します。
■ローテーションで飽きさせない
毎日同じおもちゃではなく、数種類をローテーションしましょう。
出かける前の工夫
■出発を“イベント化”しない
「行ってきます」「ハグ」「名残惜しそうな態度」などは犬に不安を与えます。
さりげなく出ていくことが大切です。
■出かける前にしっかり運動・遊びの時間を取る
エネルギーを発散することで、留守番中はぐっすり眠ってくれることが多いです。
朝の散歩はストレス緩和にとても効果的です。
■ストレスケアに
ペットが環境の変化にスムーズに対応していくためのお手伝いをするサプリメントを用意しておくと安心です。
獣医師監修:ストレスケアに!不安に寄り添う安心サプリ「ジルケーン」
帰宅後の接し方も大切
■帰宅後すぐにかまいすぎない
「帰宅=大興奮のイベント」にすると、留守番がより寂しく感じてしまいます。
まずは落ち着いてからゆっくりかまってあげましょう。
分離不安の兆候を見逃さない
分離不安というキーワードが一人歩きをしてしまって、寂しがっている犬を全て分離不安だと思ってしまうような風潮があります。
分離不安は寂しがる、というレベルの話ではなく、トイレに行く飼い主さまにも常についてまわり、少し姿が見えなくなればパニックになり、失禁や涎、嘔吐などが出てきてしまう状態です。
犬が一人になったときに行動が見られる場合、分離不安症の可能性があります。
- 声が枯れるほどずっと吠えている
- 嘔吐がみられる
- 破壊行動がある
- 爪が折れるほどに扉を掻く
- 手足を噛んで出血させる
このような場合、行動療法・薬物療法・環境調整などを組み合わせたアプローチが必要になります。
獣医師や動物行動専門医に相談することをおすすめします。
しつけより「信頼関係」がカギ
留守番の問題行動をしつけで解決しようとすると、「叱る」方向に向かいがちです。
しかし、犬は時間の経過を人間ほど明確に理解できないため、「帰宅してからの叱責」は行動改善に結びつきません。
それよりも、「この家は安全」「飼い主はいずれ帰ってくる」と信じてもらえるような日常の関わり方や信頼関係の積み重ねが、留守番不安の緩和につながります。
犬が寂しい思いをするのなら犬の幼稚園・保育園も活用を
犬は本能的に集団行動をしたい動物です。
それでも人の生活環境によっては、犬の一人の留守番の時間が長く、犬にとって孤独な時間が長く、問題行動が出てしまうこともあるでしょう。
そのために犬の幼稚園や保育園の活用をお勧めすることも増えてきました。
犬の幼稚園(保育園)とは
犬の幼稚園(保育園)は、主に日中に犬を預かり、専門スタッフが個別またはグループでトレーニングやケアを行う施設です。
人間の保育施設と同様に、「日中一緒に過ごすことで、成長を支える」という役割を持っています。
<主なサービス内容>
- 社会化トレーニング(他の犬・人・環境への慣れ)
- 基本的なしつけ(おすわり、まて、トイレ練習など)
- 問題行動の予防と改善
- 十分な運動と遊び
- ストレス解消・精神的安定
- 飼い主への報告やフォローアップ
多くの園では、個別の性格や成長段階に応じてプログラムを組み、子犬から成犬まで幅広く受け入れています。
松波動物病院でも犬のキンダーガーテン(犬の幼稚園)を実施しています。
年齢制限がないことから、多くの飼い主さまに幅広くご利用いただいています。
ワンちゃん同士で遊び合うことで友達も増えて楽しいですし、また健康チェックも行うので万が一のときは未然に病気を防ぐことも出来ます。
犬の保育園に通うメリット
■社会化のチャンスが広がる
犬は、生後3週~14週頃までが「社会化期」と呼ばれる重要な時期です。
この時期に多様な刺激(人、犬、音、環境)に触れることで、将来的な問題行動(吠え、噛み、怯え、攻撃性など)を予防しやすくなります。
保育園では、専門スタッフが管理する環境の中で他の犬や人と接するため、安心・安全に社会化が進められるのが大きな利点です。
■ 正しいしつけが学べる
家ではなかなか思うようにいかない「おすわり」「まて」「甘噛み」「トイレ」などの基本的なしつけも、プロの指導のもとでトレーニングをすすめられます。
実際に家でも実践していただくと、より良いでしょう。
また、飼い主さんもトレーナーからアドバイスを受けながら、一貫した対応ができるようになります。
■留守番時間の軽減・運動不足の解消
共働きや外出が多いご家庭では、どうしても犬が長時間ひとりになることがあります。
保育園に通えば、一日中退屈せずに活動し、安心して過ごせるため、ストレスや分離不安の予防にもつながります。
■問題行動の予防と早期対応
吠え癖や飛びつき、噛み癖など、軽度な問題行動であれば、保育園内での適切な対応で改善が期待できます。悪化する前にプロが介入できるのは非常に大きなポイントです。
まとめ
犬にとっての留守番は、ただの「待つ時間」ではなく、安心して過ごせるかどうかが非常に重要です。飼い主さんのちょっとした工夫で、そのストレスを大幅に軽減することができます。
- 環境を整え、ひとりの時間に慣れさせる
- 退屈しない仕掛けを用意する
- 出発・帰宅の対応にも気を配る
- 分離不安の兆候には早めの対応を

愛犬の幸せのために、快適なお留守番について考えていきましょう。


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