換毛期を安心して乗り切るために飼い主様が知っておくべき基礎知識とケア方法
春と秋の季節の変わり目になると、飼い主様から「うちの子の抜け毛がひどくて困っています」というご相談を多くいただきます。
これは「換毛期」という自然な現象によるものですが、適切なケアを行わなければ、愛犬・愛猫の健康に影響を与える可能性もあります。
本記事では、獣医師の立場から換毛期のメカニズムから具体的なケア方法まで、飼い主様が知っておくべき重要な情報を詳しくお伝えします。
なぜ換毛期があるのか?
気温の変化に適応するために、動物にとって換毛期は必要不可欠な生理現象です。
体温調節機能としての換毛
犬や猫の換毛期は、人間の衣替えに相当する極めて重要な生理現象です。
人間のように洋服で体温調整ができない犬や猫は、暑い時期に適した夏毛と寒い時期に適した冬毛を使い分けて体温を調整しています。
毛の構造と換毛のメカニズム
犬や猫の被毛は基本的に二層構造になっています。
オーバーコート(上毛):表面を覆う太くて長い毛で、外部からの刺激や汚れから皮膚を守る役割を果たします。
アンダーコート(下毛):オーバーコートの内側にある細くて柔らかい毛で、保温効果を担っています。
換毛期とは動物の毛が季節に応じて生え変わる時期のことであり、犬や猫は気温や日照時間に合わせて体温を調整するために必要な現象です。
換毛期の周期と特徴
一般的に換毛期は年2回、以下の時期に発生します。
・ 春の換毛期(3月~5月):冬毛から夏毛への生え替わり
・ 秋の換毛期(9月~11月):夏毛から冬毛への生え替わり
各換毛期は約1ヶ月程度続き、特に春の換毛期は冬の厚いアンダーコートが大量に抜け落ちるため、抜け毛の量が顕著に増加します。
抜け毛が多い犬種・猫種について
抜け毛が多い品種と、そこまで多くない品種がいることをご存じでしょうか?
近年で人気のトイプードルは、抜け毛がとても少ないことで有名です。
逆に柴犬は抜け毛代表犬種と言って良いほどよく抜けます。
この違いはダブルコートとシングルコートという毛の生え方によるものです。
ダブルコートとシングルコートの違い
抜け毛の量は、その動物がダブルコート(二重毛)かシングルコート(単毛)かによって大きく異なります。
《ダブルコートの特徴》
・ オーバーコートとアンダーコートの両方を持つ
・ 明確な換毛期があり、大量の抜け毛が発生
・ 体温調節機能に優れている
《シングルコートの特徴》
・ 主にオーバーコートのみ
・ 明確な換毛期がなく、年間を通して少量ずつ抜け毛
・ 比較的抜け毛が少ない
抜け毛が多いダブルコートの犬種
換毛で生え替わるのは体温調節をつかさどる下毛になるため、ダブルコートの犬種は換毛期のある犬と考えてよいでしょう。
小型犬:
- ポメラニアン
- チワワ(ロングコート)
- シーズー
- ペキニーズ
- 日本スピッツ
中型犬:
- 柴犬
- ウェルシュ・コーギー・ペンブローク
- ボーダー・コリー
- アメリカン・コッカー・スパニエル
大型犬:
- ゴールデン・レトリバー
- ラブラドール・レトリバー
- ジャーマン・シェパード・ドッグ
- シベリアン・ハスキー
- バーニーズ・マウンテン・ドッグ
抜け毛が少ないシングルコートの犬種
小型犬:
- トイ・プードル
- マルチーズ
- ヨークシャー・テリア
- パピヨン
- チワワ(スムースコート)
中型犬:
- フレンチ・ブルドッグ
- ビーグル
- ブルドッグ
大型犬:
- グレートデーン
- ドーベルマン
- ボクサー
猫の毛質による分類
猫の場合も犬と同様に、毛質によって抜け毛の量が異なります。
《抜け毛が多い長毛種》
- ペルシャ
- メインクーン
- ラグドール
- ノルウェージャン・フォレスト・キャット
《抜け毛が比較的少ない短毛種》
- アメリカン・ショートヘア
- ブリティッシュ・ショートヘア
- ロシアンブルー
- シャム
家でのお手入れ方法と効果的な対策
ブラッシングの基本
換毛期のお手入れの基本は、定期的なブラッシングです。
換毛期のブラッシングは愛犬の健康維持に不可欠な日常ケアです。
《ブラッシングの頻度》
- ダブルコート犬種:換毛期は毎日、平時は週2・3回
- シングルコート犬種:週1・2回
- 長毛種:毎日
- 短毛種:週2・3回
《ブラッシング時間の目安》
1回のブラッシングは10・20分程度に抑え、愛犬がストレスを感じないよう短時間で効率的に行うことが重要です。
犬種・毛質別のブラッシング方法
ダブルコート短毛種(柴犬、コーギーなど)
- ラバーブラシで表面の抜け毛を除去
- アンダーコート専用ブラシ(ファーミネーター等)でアンダーコートを取り除く
- 獣毛ブラシで仕上げ、毛艶を整える
ダブルコート長毛種(ゴールデン・レトリバー、ポメラニアンなど)
- コームで毛玉をチェック・除去
- ピンブラシで全体をとかす
- スリッカーブラシで抜け毛を取り除く
- 獣毛ブラシで仕上げ
シングルコート長毛種(プードル、マルチーズなど)
- コームで毛玉をチェック
- ピンブラシでとかす
- スリッカーブラシで形を整える
猫のブラッシング方法
長毛種の猫
- コームで毛玉チェック
- ピンブラシで全体をとかす
- スリッカーブラシで抜け毛除去
- 獣毛ブラシで仕上げ
短毛種の猫
- ラバーブラシで抜け毛除去
- 獣毛ブラシで仕上げ
基本的なブラッシング用具
スリッカーブラシ
・ 用途:抜け毛の除去、毛玉の予防
・ 特徴:長方形の土台にくの字型の細い針金が植えられている
・ 適用:ダブルコート犬種、長毛種
ピンブラシ
・ 用途:毛の流れを整える、軽いブラッシング
・ 特徴:先端が丸い金属ピンが植えられている
・ 適用:長毛種全般
ラバーブラシ
・ 用途:短毛種の抜け毛除去
・ 特徴:ゴム製で皮膚に優しい
・ 適用:短毛種、皮膚が敏感な動物
獣毛ブラシ
・ 用途:仕上げ、毛艶出し
・ 特徴:天然毛により静電気が起こりにくい
・ 適用:全犬種・猫種
スリッカーブラシは針金がたくさんあるものなので、慣れない人が使用するとケガすることがあります。
動物の皮膚に傷をつけることもあるので、無理に使用することは止めましょう。
家で使用するならラバーブラシか獣毛ブラシが安全でしょう。
斜め毛先が無理なく被毛の奥に入り込み、やさしく抜け毛をキャッチ!
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抜け毛対策はなぜ必要なのか?
皮膚疾患のリスク
犬の換毛期には皮膚トラブルが発生しやすく、抜け毛の放置によって皮膚炎がひどくなる傾向があります。
猫の抜け毛、または毛玉を放置してしまうと、毛球症や皮膚病の発症リスクが高くなるので注意が必要です。
《代表的な皮膚トラブル》
膿皮症:
・ 原因:常在菌(ブドウ球菌)の異常増殖
・ 症状:脱毛、フケ、赤み、膿疱の形成
・ 発症メカニズム:抜け毛放置→皮膚の通気性悪化→細菌増殖
マラセチア皮膚炎:
・ 原因:マラセチア(カビの一種)の増殖
・ 症状:強いかゆみ、脂っぽい臭い、茶色い分泌物
・ 発症メカニズム:湿度の高い環境での菌の増殖
接触性皮膚炎:
・ 原因:毛玉による皮膚の継続的な刺激
・ 症状:発赤、腫れ、かゆみ
・ 悪化要因:毛玉の放置による機械的刺激の継続
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猫特有の健康リスク:毛球症
毛球症の発症メカニズム:
猫は自分で毛づくろいを行うため、抜け毛が口に入り胃腸内に蓄積されます。
通常は自然に排出されますが、換毛期に大量の毛を飲み込むと消化管内で毛玉を形成し、毛球症を発症する可能性があります。
症状:
- 繰り返す嘔吐
- 食欲不振
- 便秘
- 腹部の張り
予防法:
- 定期的なブラッシングによる抜け毛の除去
- 毛球症予防用フードの給与
- 必要に応じて毛球症予防用サプリメントの使用
猫の腸内の毛玉の除去及び形成防止に
動物病院での専門的ケア
抜け毛の量がとても多い犬種、柴犬などは自宅でブラッシングをしても全て取りきることは難しいでしょう。
また皮膚のトラブルがすでに起きてしまっているケースもあるため、動物病院やトリミングサロンを利用して、健康な被毛を維持することが推奨されます。
獣医師による健康チェック
換毛期には以下の点について獣医師による専門的な評価を受けることをお勧めします。
- 皮膚の健康状態の確認
- 毛質・毛量の変化の評価
- 外部寄生虫の有無チェック
- 栄養状態の評価
プロフェッショナルグルーミング
トリミングサロンでの専門ケアは、一度経験してみると驚くべきものがあります。
しっかりと抜け毛を取り、清潔な皮膚に洗いあげてもらえます。
- 専用機器による効率的な抜け毛除去
- 毛玉の安全な除去
- 皮膚の健康チェック
- シャンプー・リンスによる皮膚ケア
当院でもトリミングを行っております。
まとめ
換毛期は犬や猫にとって自然で重要な生理現象ですが、適切なケアを行わなければ様々な健康問題を引き起こす可能性があります。



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