2020.03.05健康 , 知識

ネコちゃんに多い病気(異物誤食のこと:後半その2)

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前回の記事でも紹介した画像になります。消化管内にある光る物質が異物です。また異物がある前後の腸は腸閉塞を引き起こしており、腸全体がぐにゃぐにゃになっています(コルゲートサイン)。また腸と腸が重なり合っているところは腸重積の所見。さらには赤矢印は十二指腸の一部で腸が破れてしまっている所見(消化管穿孔)になります。つまり、CT検査を実施することで、異物のある程度の種類(かたい?やわらかい?)、そして腸閉塞や腸重積の場所と程度、さらに穿孔場所が即時に診断できるので、手術を開始した直後からピンポイントで摘出処置ができることになります。この作業が手術全体の時間、つまり麻酔時間を非常に短縮してくれることにもつながるのです。

 

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上の画像は、腸重積を起こしている場所です。腸の中に腸が入り込んでしまっています。

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そしてこの画像が、消化管穿孔の場所です。異物が腸の中に長時間停滞してしまうことで、腸は捻じれてしまい、結果、腸の一部が弱くなり破れてしまうのです。

 

以上の場所を、各術式に基づき、手術を遂行していきます。また必要に応じて(腸が壊死してしまっていたり)、難易度の高い術式も組み合わせていきながら(消化管吻合術)、異物を摘出し、各アクシデント場所を直していきます。また最後に、お腹の中を生理食塩水でジャバジャバ洗い、なるだけ清潔の状態にしてから閉腹していきます(今回は消化管穿孔もあったため、腹腔内ドレーンを設置=P-VACしています)。

手術後は、数日間の絶飲食後、少量の水から飲水を開始して、消化管の動きなどもチェックしていきます。またこのような手術をした場合、腹膜炎(細菌感染によるもの)も治療対象内ですので、抗生物質は必ず使用していきます。また血液中のたんばく質であるアルブミンという成分が低くなりすぎると(長期間の栄養状態が悪いことや侵襲性の高い手術後は特に)、再度、腸が破れてしまったり傷の治りを遅延させてしまったりするので、点滴剤なども工夫していきます(高カロリー輸液など)。術後の数日間を何とか乗り切ってくれれば、あとは流動食や缶詰などを少しずつあげていき、また量も日毎、増やしていきます。その結果、消化管の動きも良く、血液性状も改善していけば、退院の目処が立ってくるのです。

 

今回は、私たち獣医師が実際に『異物誤飲』によって腸閉塞などを起こしてしまった症例に実施する治療法(外科手術)をご紹介させて頂きました。具体的な症例をご紹介しましたが、腸閉塞、腸重積、消化管穿孔まで起こしているネコちゃんはかなりの重症例になります。最悪、死に至ってしまったり、術後合併症を引き起こしてしまったり、また治ったが消化管の動きに障害が出てしまったりするケースも実際のところ、あることはあります。それだけこの『異物誤飲』という病気は重篤な症状を引き起こしてしまう病気だということを、ぜひともご理解いただければと思います。命を守るのは、ご家族ですよ!

 

松波動物病院メディカルセンター
獣医師 松波登記臣

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獣医師 松波登記臣

獣医師 松波登記臣

名古屋市にある松波動物病院メディカルセンター副院長の松波登記臣です。臨床獣医師として毎日診療および手術を担当しています。専門分野は、内分泌疾患(糖尿病、クッシング、甲状腺)や肝臓疾患で学位を取得しました。また近年では「痛みが少なく・傷が小さい」内視鏡手術に取り組んでおり、腹腔鏡を用いての避妊手術や各種生検、さらには胆嚢摘出、副腎摘出、肝葉切除などを行っています。